『水のかたち』で自分の姿を考える
宮本輝の本を初めて読んだのは、仲の良かった女性から薦められた「青が散る」だったかと記憶しています。それから、新刊が出ると読むことにしています。
今回の主人公は50代の主婦。近所にあるお店から手に入れた古い手文庫と焼き物から運命の輪が回り始める。焼き物が3000万円で売れて、手文庫は実は戦後に北朝鮮から38度線を越えて日本に戻ってきた人の物であり、学生時代の友人は有名ジャズシンガーになり、最後は喫茶店の経営まで始めてしまうのです。
転がり始めた運命は自分の予想をはるかに超えたところに向かって進みます。こんなご都合主義があってよいのかと思うレベルでコロコロと話が変わって行くので、ちょっとこれは流石に...と思っても不思議ではないレベル。
この主人公、周囲からはとても好かれて様々なことが回るのですが、個人的にはあまり好きになれませんでした。
なぜなら、人を見た目で判断し、自分の思うように相手からお礼がなかったりすると不愉快になり、京都だからオシャレな食事とか言い出し、手土産を現地で選ぶ用意の悪さ、こういう女性は苦手なんだけど周りにもいるな~、と思いながら読んでいたのです。男性サイドから見ると、こういうタイプの女性が苦手な人はいるのではないでしょうか。
本書でとても気に入ったフレーズがありました。
「自分を自分以上のものに見せようとせず、自分以下のものにも見せないともしない」
つまり、自分は自分であれ。背伸びも過小評価もするな、ということなのでしょう。これは簡単なようでいて、とても難しいことだとです。
一時期、自然体やありのままの自分というキーワードが流行して、ただワガママばかりを言う人が溢れ返りましたが、そういう人間であれと言っているのではありません。
おごらず、謙虚に、でも卑屈にならず。
この言葉を胸に刻んで行こうと思いました。そのような人間に、きっとよきことが巡ってくるのだと思いながら。
最後に、本書内に出てきた戦後の北朝鮮脱出手記は作り話ではなく、実際の体験談から書き起こされたと知って驚きました。もう、戦争をくぐり抜けて戦後の日本を作り上げた世代も亡くなった方が増えてきている中、この手記を本書を通して読めたのは幸運だったと思いたいです。
- 作者: 宮本輝
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/09/26
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