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【読書】「村上海賊の娘」は汗臭い男達の輝きの物語

村上海賊の娘 の上下巻をやっと読み終えました。

和田竜さんの本はちょっと前から新刊が出る度に読んでいたのだけど、本屋大賞を受賞してしまったのでとっても今さら感がありますが、自分の記録として書きとどめておきます。
 
話は戦国時代に最強の水軍と恐れられた村上水軍(村上海賊)のお話。後生、日本帝国海軍がその戦術授業にも利用したと言われる木津川合戦が最後のクライマックスです。
 
タイトルにあるとおり、主人公は三つの村上家の中でもボス的位置付けにある能島村上家の長女。背が高く、欧米人的な顔立ちをしていたことから地元では醜女と呼ばれ続け、男勝りの性格と気性の荒さで常日頃から海賊稼業の先頭に立っていたのが、ひょんなことから石山本願寺派の庶民を船に乗せて運んだことがきっかけとなり、石山本願寺攻めに巻き込まれていく。その中で、初めて戦の恐ろしさと理不尽さと自分の甘さを思い知るのだが、最後、やはり自分の心に従って戦場に舞い戻る。当初、戦をせずに引き上げる予定だった村上海賊を始めとする毛利軍は、突然現れた彼女の姿を見て急遽反転攻勢を掛けるが泉州侍とのし烈な戦いの渦に巻き込まれて行く。果たして勝者は?
 
歴史物なので当然だけれど結末は決まっていて、勝者と敗者が引っ繰り返るようなことはない。なので、歴史物小説はいかに主人公や周囲の脇役達のキャラクターが立っているか、書きっぷりで読者を引き込むことができるかが勝負だと思うのです。
 
過去の実績があるので、最後まで読んでいればきっと面白くなるに違いない。そう思っていなければ上巻の途中で挫折してしまいそうでした。最初は姫の海賊行いのシーンなどが面白いのですが、徐々に戦に対して妙な正義感というか、その時の感情だけで口を挟む姫の行動に嫌気がさしてくるだけでなく、「だから何?これがどうだっての?」という感じがだらだらと続きます。
 
それが、下巻の中盤以降、やはり木津川合戦が始まり戦闘描写が中心になると、今までのおっとりペースがウソのようにページをめくる手が進んでいくのです。村上海賊が焔落玉を投げれば泉州側は銛を投げ抜き、船と船がぶつかり双方が刀を抜いての白兵戦、雑賀衆首領である雑賀孫一の戦い、などこれでもかというほどにスピーディに戦いが展開していくのに同じことが繰り返されないので飽きることなく読み進められます。
 
元々、戦いはしたくないな〜、今回は戦はなしだな、と思っていた両者が「いざ戦」と腹を決めたときの全員の気持ちよさが最高です。みんな姫様が、とか言いながら戦うことが嬉しくて仕方ない。それは殺し合いをすることが嬉しいのではなく、自分が最も得意とする領域で自分の力を発揮できる時間と場所を与えられたことに対するうれしさなのでしょう。
 
木津川合戦で双方が死力を尽くして勝利を目指しながらも、相手の力量を見計らい、敬意を評しながら戦う姿は美しいけれど、残酷なほどに勝敗と生死が分けられてしまいます。勝者がいれば敗者がいる。そして、この時代での敗者それは死を意味するものなのです。
 
タイトルこそ村上海賊の娘、と女性が主人公になっていますが、読んでいて面白いのは後半の木津川合戦における男達の輝きです。戦好きな男達が自分の居場所というか、最も力を発揮できる場所と死に場所を見つけた男達の最後の輝きとでもいえばいいのでしょうか。今、会社員の中でどれだけの人がこのように目を輝かせながら現場にいるのかと思うと、少しこの時代の人たちが羨ましくもなりました。

 

村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 上巻

 

 

村上海賊の娘 下巻

村上海賊の娘 下巻

 

 

でも、やはり和田竜さんの傑作は「のぼうの城」だと思うのです。

 

 

のぼうの城 上 (小学館文庫)

のぼうの城 上 (小学館文庫)