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知らぬは自分ばかりの姫『岩窟姫』(近藤史恵)

モンテ・クリスト伯の『岩窟王』をもじったというかモチーフにしているであろうことは題名からも容易に推測できる範疇で、岩窟王の話自体が本書を開いてすぐ紹介されているので間違いないところなのである。

さて、ストーリーの主人公は芸能事務所に所属する長身でモデル体型の女性。同じ事務所で仲が良かった売れっ子が自殺し、その子が本名を隠して書いていたSNSで「主人公からいじめられていた」と書いていたことからすべての歯車が狂い始めてしまう。

それまでは、外を歩いて入れば男も女も寄ってきてくれていたのが、突然、顔を知られていること自体が不利に働いてしまうことになる。そう、コンビニに買い物にすら行けなくなる恐怖がつきまとうのである。

なぜ、自殺した子はそんなことを書いたのか、自分自身に思い当たるフシがないのに突然すべてが狂ってしまった。どうしてこんなことになったのか、彼女は本当に私のことが嫌いだったのか、失われた自分を取り戻す旅に出ることにしたのである。

 

女性の芸能界で何が行われていて、何が行われていないのか、正直、まったく知らない業界なのでよく分からない。いや、正確には少しだけ知っているのだけど、あくまでまた聞きなので情報の正しさ自体を自分で判断することができない。

「岩窟姫」というタイトルにでてくる「姫」とはどういう意味なのか。物語の終盤で「事務所の中に姫がいる」という言葉の真意には驚かされるしかない。

だって「夜の営業活動をしなくてよい人」を姫と呼ぶというのである。裏を返すと「姫」以外はみな夜の営業活動を行っているということなのである。そんな世界なのか...華やかそうに見える世界でも大変である。

そして、自分自身が夜の営業活動をしていなかったのが、それが普通であると思ってしまうことは実社会でも似たような状況があるので、ちょっとよく分かる。

 

途中、謎を追う主人公を助ける男性が、「単に美しい女性を見ているだけでいい。性格がどうとか、彼氏がどうとか、そんな部分はどうでもいいんだ。というニュアンスの発言をするのだが、まさにその通りである。

美しい女性を見ているだけで幸せになる。そんな瞬間はあるのですから。

 

さて、結局、いろいろな謎は隠されたまま終わってしまうのだけど、まあ、それでいいのかな、と思うのです。

 

岩窟姫 (文芸書)

岩窟姫 (文芸書)