読売新聞の「読むスポーツ」特集に便乗する
今朝、読売新聞の紙面で「読むスポーツ」特集があったのだけど、Webでは見当たらなかったので紙面だけの特集かな。
読書の秋、スポーツの秋、の両方を一気に楽しんでしまいましょう、というこの企画。
紹介されていた小説は好きな物ばかりだったのだけど、他にも個人的に好きなスポーツ小説を紹介。
ランニング関連
一瞬の風になれ(佐藤多佳子)
中学時代、足の速さだけが取りえだったサッカー部だった主人公が高校生になってから陸上部で短距離走を始める。そこには中学時代に全国大会に出ていた親友の影響もあり、徐々にその実力を発揮していく。
高校生青春もので、厳しい部活の中に友情あり恋愛ありと盛りだくさん。部活をやっていた高校生にとっては手に取るように気持ちがわかる。男子校だったけど...
そして、やはり陸上競技の花型はリレー。速い人だけが走れるリレーに出るということ自体、運動会でも鼻高々だった。
そのリレーの疾走感と躍動感あふれる描写が素晴らしく、自分が走っているような気分になるのである。読み終えたあとは爽快感が広がる。
夏から夏へ(佐藤多佳子)
リレーといえば北京五輪で「朝原さんにメダルを!」の掛け声で見事に銅メダルを獲得したのが記憶に新しい。
塚原の抜群のスタート、末續の伸びるストレート、高原の絶妙のコーナリング、そして朝原の魂のゴール。
そんな北京五輪に向かうまでのリレーメンバーの戦いを合宿なども含めてノンフィクションで綴られる。
それぞれがどんな想いで、あの戦いに向かっていったのか。改めてリレーの楽しさを知る。
風が強く吹いている(三浦しおん)
箱根駅伝ものの最高傑作といえば本作になるだろうか。
たった10人しかいない駅伝部が箱根駅伝出場を目指す物語。高校時代の故障が完治していない主将、抜群のセンスがありながら走ることを辞めてしまった新入生、黒人だからって巻き込まれた留学生などなど個性あふれるメンバーが紆余曲折を経て少しずつチームになっていく。
現実問題として箱根駅伝に出場するのはそう簡単なことじゃないけれど、読んでいてみんなを応援したくなってくる不思議。
6区、箱根からの下り。最もスピードが出る区間。
そこを初めて走った選手は今までに実感したことがない速さで景色が過ぎていくことを知る。そして、そのスピードで平地を走る一年生エースに思いを馳せながら、自らの限界を知る。
世の中には天賦の才能を持ち、さらにそれを努力で花咲かせる者たちがいる。音のない世界の中でそんなことを感じてしまうのが嬉しくもあり悲しくもある。
駅伝は個人競技ではなく団体競技なんだと思い出させてくれる一冊。
そう、今でも学校代表として駅伝を走ったことが懐かしい。
チーム(堂場瞬一)
同じく箱根駅伝もの。
大学として箱根に出場できなかったが、予選会で高タイムを出した者たちで構成される学連選抜。
様々な学校の生徒がタスキを繋ぐ学連選抜は、どうしても記念参加的な意味合いで見られる。
そんな学連選抜に偶然優勝を狙えるような選手が集まってしまった。駅伝は個人競技でなく、一本のタスキをゴールまで運ぶ団体競技である。
でも、学連選抜は「同じ釜の飯を食った」仲間とはいえない即席集団だがチームになれるのか。
それぞれの想いを胸に箱根駅伝が始まる。チームってなんだろう、と考えさせられる。
野球
スローカーブを、もう一球(山際淳司)
短編集の中にある「江夏の21球」がやはり秀逸で読売新聞紙面で紹介されていた。
あの伝説の江夏豊が投じた21球の背景には何があったのか。
誰もが少年時代にプレイしたことがある野球も、ここまで奥が深いものなのかと愕然とさせられる。
ピッチャーとバッターの駆け引きを観ていくのが楽しくなる。
自転車
サクリファイス(近藤史恵)
サスペンス要素が強いけど、自転車ロードレースものとして本作を外すわけにはいかない。
著者の近藤史恵はツール・ド・フランスを観戦に行くくらいロードレース好きで、相当細かくロードレースのことが描かれている。
そのプロトンの中での会話や小競り合い、ヒルクライムの孤独、ダウンヒルの恐怖とスピード感が心地よく描かれていて、読み終わるとロードレーサーに乗りたくなる。
そして、最後の最後にサクリファイス(犠牲)の言葉の本当の意味を知るとき、自転車ロードレースと女の心情の闇を知ることになる。
高飛び込み
DIVE!!(森絵都)
未読。
読売新聞の紙面で紹介されていたので読んでみようと思う。
高飛び込みがテーマになっているのだけど、やったことないし、競技会を生で見たことはなくTVで少し垣間見たことがある程度である。
どんなスポーツであっても登りつめようとする過程では努力があり、困難があるものである。
ちょっと読むのが楽しみである。
まとめ
紙面にも書いてあったが、スポーツ物を小説にするには可動範囲の少ないスポーツの方が描きやすいらしい。
なるほど、結果的にはランニングというシンプルにして奥深い競技の本が多いのは偶然ではないのだろう。
どうしても小説だけでは表現できない身体の動きがあり、それは競技経験者であれば分かるだろうが、やったことがない人には想像することすら難しい。
その辺りはマンガの得意分野なのだろう。
でも、小説にはそのシーンを頭で思い浮かべてイメージするという楽しさがある。これからも楽しいスポーツ小説を読みたい。