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ジャーナリズムと正義とは何か「王とサーカス」米澤穂信

女性フリーライターの大刀洗が旅行記事を書くために訪れたネパールのカトマンズにおいて、王宮での王族殺人事件が発生します。

宿舎の女主人を通じて王宮を警護していた軍人に会うが、事件の話を聞くどころかジャーナリズムの正義について問い詰められるが、相手を納得させる回答ができない。

そんな准尉が「INFORMER(密告者)」と背中に文字を掘られた死体として発見されます。准尉はなぜ殺されたのか、INFORMERの真意は何か。

殺された前日に会った主人公は警察に連行されるものの、銃を発射した痕跡がなかったため釈放されます。

王族殺人事件の原稿に准尉の話と写真を入れるか悩む主人公。

改めて死体発見現場に護衛の警官と同行してから、少しずつ違和感が解け始め、カチリカチリとジグソーパズルのピースが嵌っていきます。

准尉が殺されたのは王族殺人事件とは無関係だった。そして、准尉の死を利用しようとした人間がいたのです。

きっかけは偶然だった。しかし、すべての歯車は動いてしまったのでした。


私は知らなかったのですが、この王族殺人事件は史実でした。我ながら無知が悲しいところです。

 

ネパール王族殺害事件 - Wikipedia

 

まさか、王族の集まる食事会で銃を乱射して父である王を含めて大量に殺害してしまう事序盤から中盤までに細かく散りばめられた伏線を終盤に一気に回収していくスピード感が好きです。

ああ、あそこで出てきた違和感のあるキーワードには、こういう伏線が隠されていたのか!気づかなかった!と読み終わってからもう一度見返したいほどです。

本作は殺人に関わるストーリーよりも、人間の持つ「正義」や「ジャーナリズム」に関するメッセージを強く感じました。

一貫しているのはマスコミやジャーナリズムに対する批判的な姿勢です。

詳しく調べることなく、その背後関係や詳細を調べることなく、より凄惨で悲惨な写真や物語を紡ぎ、正義を振りかざす。

そして、その報道によって何が起こっても、その結果に対しては責任を取ることがない。
そんなジャーナリズムの姿勢を批判するとともに、情報を受け取って過敏に反応してしまう我々一般市民にも責任があるでしょう。

安易に衝動的で先導的な内容を信じこみ、過敏に反応してしまう。

その結果、もっと悲劇的なものを、もっと激しいものを、とメディア側も我々もエスカレートしていってしまうのではないだろうか。

特に響いた台詞を引用します。

 

「確かに信念を持つ者は美しい。信じた道に殉じる者の生き方は凄みを帯びる。だが泥棒には泥棒の信念が、詐欺師には詐欺師の信念がある。信念を持つこととそれが正しいことの間には関係がない」

 

 

「自分に降りかかることのない惨劇はこの上もなく刺激的な娯楽だ」

 

「お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物(だしもの)だ。我々の王の死はとっておきのメインイベントというわけだ」

 

「軍人も密売人になれる。密売人も誇りを持てる。誇り高い言葉を口にしながら、手はいくらでもそれを裏切る。ずっと手を汚してきた男が、譲れない一点では驚くほど清廉になる。どれも当たり前のことじゃないか」

 

「記者なんて連中は、ろくに調べもせずに他人を引っかき回すクズだって思えた」


私も過去に取材された記事が雑誌に掲載されました。

ゲラも見せられることなく発売され、話の順番が入替えられていたため、意図していた内容が伝わりにくくなっていました。

彼らの言葉では「編集」ということになるのでしょうが、きちんと業界のことも調べずに実施されたことには不満を感じたものです。

すべては記者の実績や満足のために書いただけであり、書かれた側のことなど何も考えていないのではないか、そんな感じを受けました。

 

ジャーナリストから発表されるさまざまな情報をどのように受け止め、どう判断するのか、自分なりに考えるための一冊でした。

そして、ネパールのカトマンズ。いつか登山に訪れてみたい町です。 

 

王とサーカス

王とサーカス

 

  

トレッキングとポップな街歩き ネパールへ (旅のヒントBOOK)

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