【読書】おなじみの勧善懲悪が気持ちいい半沢直樹「銀翼のイカロス」(池井戸潤)
半沢直樹シリーズの最新作。
今までは何となく架空の設定だったのだけど、今作はもう誰がどう見ても実際にあった政治経済状況が舞台。それは日本航空(JAL)の破綻と再生の物語。
123便の墜落事故から一気におかしくなったJALには、ぜひともきちんと再生してほしいとJGCメンバーとしても思うところ。JAL123便の話は山崎豊子の「沈まぬ太陽」が傑作だと思うが全体だと長いのいで3巻の御巣鷹山篇だけ読めばいい。他には横山秀夫の「クライマーズ・ハイ」も別視点からのアプローチが面白かった。
さて、現実のJAL再生のときも政治的要因があったとされ、話が二転三転したのは記憶に新しいところ。本書の序盤はまさにその混乱を表していて、実際にもこんな感じだったんだろうかと思ってしまう。
まず、銀行主導での再建計画に、新政権を奪取した政党が据えたお飾り女性大臣直轄のタスクフォースチームがダメ出しをする。
ああ、なんか分かる。これは自分の周りにも実力を勘違いして吠える人がいるのと同じである。
タスクフォースチームと裏で繋がっている内部の裏切り者がいる。スキャンダルを武器にされ、自らの保身も掛けて裏切ることを選択する。
誰が、なぜ、そしてそのスキャンダルは銀行そのものの存在意義そのものを揺るがす。
ドラマ「半沢直樹」の出演者で、自然と動きやセリフが脳内再生されてしまう、ってことは改めてテレビドラマのインパクトを再認識。
銀行内部のドロドロした暗部をどうしても隠したい派、何とかして綺麗にしたい派、それぞれが頭脳戦というか、あれやこれやと策を講じていくのは、推理小説というかスパイ小説みたいな感覚。
基本、最終的に半沢直樹サイドが勝つんだろうな、というある意味、水戸黄門的な勧善懲悪ストーリーになることは想定の範囲内なので、あとはどうやって逆転するのか。
最後に待っていた逆転劇を見て改めて思ったのは、官僚は絶対に怒らせてはならない。ということ。
実際、キャリア官僚の方々と仕事して感じたのは、恐るべき勤勉さと頭の回転速度の速さである。この人たち、いつ寝てるの?いつの間にそんな知識を身に付けたの?と何度驚かされたことか。
このシリーズがに人気なのは巨悪を倒す部分はもちろんのこと、小狡いことをやっていた人間に鉄槌をくだすシーンだろう。
大きすぎる相手は自分の私生活からかけ離れているが、小物であれば身近にたくさんいる。
そんな自分の身の回りにも似たようなレベルの小物臭漂う人がいて、自分にもこんなことができたら、さぞかし気持ちいいんだろうな、と半沢直樹に自分の欲望を投影しているからなのだろう。
かくいう自分自身もそうなのだけど。
半沢直樹シリーズはまだ続くのだろうか。そろそろ部長になって役員を目指すくらいになるのかな?出たらきっと読むんだろうな。楽しみである。