【読書】女性のドロっとした闇が見える「ユートピア」湊かなえ【書評】
「ユートピア」を読んだ。
舞台は鼻崎町。海沿いにある「ハッスイ」という水産加工品会社の工場がある企業城下町。そこに古くから住んで商店街を営む人たち、ハッスイの社宅に住んでいる人たち、そして、新たに海沿いで花が咲く美しい景色に価値を見出して引っ越してきた自称芸術家たち。
仏壇屋の菜々子は、生まれ育った町なので愛着がないこともないが早く出て行きたい。社宅に住む光稀は、東京にいることが都会人であり勝ち組だと信じて周囲を田舎者と見下す。陶芸家のさゆりは、芸術家として大成できていない強烈な劣等感を持ちながら、芸術家として生きて行きたいと模索する。
この3人を中心に話が進められていくが、主婦たちの嫉妬、憎悪、憧憬といった心理をこれでもかと描かれていてゾッとする。本人には褒め言葉をいうくせに、裏では悪口ばかりいう。場合によっては、それは相手に合わせて言っているだけで本心ではないかもしれないが、恐ろしい。
やはり湊かなえという作家は、女性の闇を書かせたら天下一品というか最強なのではないだろうか。
どうしてこんなことになったのか。どうして自分だけが不幸なのだろうか、どうしてあの人は悪口ばかり言うのか...そんな負の感情ばかり抱き続けるのだから周囲、とくに男側は堪ったものではない。
だから浮気したり、離婚したり、そもそも結婚せずに女を利用したりするのであろう。もちろん、男側にも責任の一端はあるのだろうけど。
地に足着けた大半の人たちは、ユートピアなどどこにも存在しないことを知っている。ユートピアを求める人は、自分の不幸を土地のせいにして、ここではないどこかを探しているだけだ。永遠にさまよい続けていればいい。
みんな、ここではないどこか。本当の自分や青い鳥を探しているのである。いい年齢した主婦たちの発想としては幼いと思うのは男性的視点だろうか。
何より面白いのは、こんなセリフを他人に対して思いついているくせに、本人は「不倫して男にどこか連れ出して欲しい」と願っていることである。
交通事故、過去の殺人事件、ボランティア、アーティストの村、雑誌掲載、TV出演などまあ女性が好きそうなテーマをよくもこれだけ盛り込んで、女性の感情面の嫌なところを余すことなく描いたものである。
そして終盤、ある程度予想はしていたものの、一番怖いのはやはりこいつらだったのか、と改めて思い知ることになる。
すべての謎を解かず、一部の謎が残っているのはどうなっているのか、気になってしまう終わり方なのだが、それも含めて見事な伏線回収と湊かなえっぽさが出ている傑作でした。