【書評】学力の経済学(中室牧子)
書店で平積みになっていた、ちょっと話題になった「学力の経済学」を読了。
学力を向上させるには、どの施策がコストパフォーマンスが良いのか、統計的な観点からまとめたもの。
ただ、実験は特定の環境を作り出して比較するため、日本ではほとんど実施されておらず、統計データはほとんどアメリカのものであることは、差し引いて考えるべきでしょう。アメリカは人種のるつぼと呼ばれるほど多種多様な人材にあふれているため、日本よりも統計サンプルとしては面白いのかもしれません。
なるほど、教育経済学という、こんな面白い分野があったのか、というのが第一の感想。
子を持つ親としては、やはり教育は気になるテーマなのは当然。
冒頭に「相関関係と因果関係は違う」と説明されているが、なぜこんなことをわざわざ書くのか不思議である。普通に考えれば、そんなことは高校や大学で学び、社会人で嫌というほど経験しているはずだからだ。
恐らく、この本を読む人には教育熱心なママが含まれていることを想定しているのでしょう。
教育ママがすべて高学歴であり統計学を学んでいるとは限らない、という前提に立って話を進めているのでしょう。そういった観点ではマーケティングがうまいというか、想定している読者が明確になっているのです。
さて、本書で主張されていたことで興味深いと思った3点。
勉強したことでお金をあげることは悪くない
テストの結果が良ければ賞金を渡すようなことの是非について、インセンティブを働かせることは悪くなく、成績を向上させることも可能とのこと。
ただし、結果に対してお金を払うのではなく、勉強したことそのもの(1時間勉強するとか)に対して払うほうがインセンティブが働きやすい。
これは、まだ子どもだと「結果の出し方」がよく分かっていないので、具体的な方法が分からなくて勉強しなくなる可能性があるため。
大人になると成果主義で給料が支払われることに違和感は感じないけれど、そもそも何をやればいいのか分かってない年齢の場合は、行為そのものにインセンティブを働かせればよいとのこと。
ゲームをやめても勉強時間はほぼ増えない
ある実験でゲームを強制的に辞めさせても、勉強時間は5分も増えなかったとのこと。
ゲームを辞めたとしても、その時間を勉強にあてるとは限らない。
そして、よくある「ゲームをすると暴力的になる」、「ゲーム脳になる」という妄想を統計的に否定している。
これ、当たり前の話で、ゲームがなかった時代の子供達は勉強してたのか、というとテレビを見たり漫画を読んでいた訳で、とにかく悪者を作る風潮は馬鹿馬鹿しい限りである。
努力したことそのものを褒める
「あなたはやればできるのよ」という元々の能力を褒めるより、「頑張って勉強したね」という努力したことに対して褒めた方が学力が向上する、という点は、なるほどである。
子どもとしては「努力したこと」自体を褒められるのがインセンティブになり、もっと頑張ろうと思うとのこと。
元々の才能自体を褒められるのと、受け取り方が違うのだとか。
また、この褒め方をしていると、「やればできる」という考え方に繋がっていくのだという。
これは非常に恐ろしいことで、「やればできる。ただ、まだやってないだけなんだ」という思考回路のままで大人になると、努力もせずに周囲を見下すような考え方を身に付けてしまいそうである。
まとめ
子どもの学力が気になるのは親として当然のこと。
学力だけに関してはプロの言うことでなく、子供を有名学校に入れた母親の著書がベストセラーになったりする、と嘆いていました。それはその通り。
なるほど、つい最近もそんな本を見かけました。興味ないので読んでませんが…
学力を向上させるために科学的な方法があり、それは統計的に効率的な方法が証明されている。
自分の子供は違う、この子の個性に沿った勉強方法がある、などと思わずに統計的に正しい選択を歩むというのが、一般人としては最も良い方法なのでしょう。