【読書】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。(辻村深月)
母親を包丁で刺した友人女性が逃亡した。
その一報を聞き、仕事の合間を縫って東京から田舎に行って友人の行方を追いかける。なんとなく、刺して逃げ出した理由が分かるから。
前半は女性を探す側の視点から、終盤は逃げる女性の視点で物語が進んでいく。
とにかく登場人物ほぼ全員がクズすぎて、他人を傷つけずに生きていけないのか、友人同士というような仮面をかぶりながらも常に他人を見下しながらラベルを貼り、そしてマウンティングすることに血脈を上げている人たちばかりである。
そんな人生のどこが楽しいのか、と首を傾げてしまうのだが、狭い世界で生きていくことしか知らない人たちにとっての価値観や風習はそんなものなのかもしれない。
いや、東京や都会で住んでいる人が違うかと言えばそんなこともなく、友人を探し求める主人公の女性ですら、東京に住んでいることを自然に鼻にかけて、田舎の古い友人たちを見下しているのだから。
で、女性だけがヒドいのかというと、出てくる男が輪をかけてクズでどうしようもない。クズの周りにはクズが集まるってことを表現したいのか、東京の男はロクな奴がいないという話なのか、騙される田舎の女子が悪いとでも言いたいのか、さっぱり分からない部分である。
そして、最後の最後、唯一救われるのは母親の愛情だけである。
母親は娘を愛していた。他人の家からは少し変なように見えたのかもしれないが。
親の心子知らず、とはよく言ったもので、それは自分が親になったからこそ分かることでもある。えてして失ってみて初めて分かることなのであるが、それにしても、悲しい結末である。
周りに翻弄され、周りに流され、何かにすがるように生きていくというのは難しい。