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【読書】「激走!日本アルプス大縦断」

トランスジャパンアルプスレース

最近流行の兆しがあるトレイルラン。

もちろん、僕自身もフルマラソンだけでは飽き足らず、六甲山の麓に住んでいることもあって定期的にトレイルに走りに行く。そこにはロードでは味わうことができない、自然と一体化した空気があるから。

トレイルランの大会としては、日本のウルトラトレイルマウント富士をはじめ100マイル(160km)レースがスタンダードになっている。残念ながら、自分はまだそのレベルに達していないので、いつかその舞台に立てる日を夢見て日々鍛錬あるのみなのである。

しかし、その160kmレースを遙かに凌駕する超ロングトレイルレースが日本に存在した。その名もトランスジャパンアルプスレース

初めてその名前を知ったのは、2年前のNHKでのテレビ放送。2年に1回行われるそのレースは、富山県の日本海側をスタート地点として、アルプスを越えて静岡の太平洋がゴールだという。その距離なんと415km。

そのテレビ放送を見て圧倒された。世の中には恐るべき変態がこんなにたくさんいるのだと。何だか公私でうまく行かないことがあると、その録画を見て自分の悩みなんて小さいもんだな、などと一人つぶやいていた。そのテレビ放送はDVD化されていたのも最近知った。

 

 

映像の舞台裏

今回、読んだのは、この放送の裏側とテレビでは放送し切れなかった部分を余すことなく文書化した書籍。

正直、表紙の写真と説明で驚く。そこには「剱岳駆け上がる望月選手」とある。新田次郎劒岳―点の記でも描かれた剱岳山頂への登山の険しさは、あの山を眼前で見たものであれば分かる。あそこを駆け上がることなんてできるのかよ、と。

あのドキュメンタリーはランニング関係の中では最高峰に位置していると思うのだが、ちょっと短いなと感じていた。その膨大な映像と取材量からカットされてしまったシーンがふんだんに記載されているのである。この書籍の内容で全て再映像化してもらえないだろうか。そう感じるほど濃密な内容だった。各選手がここまで至るまでの過程、日々のトレーニング、スタート直後にリタイアした者、疲労と睡眠不足による幻覚と幻聴、選手同士の繋がり、クルーの苦労話。
 
日本海から太平洋まで、日本アルプスを越えて415kmを8日間以内に走る。人にそんなことができるのか、と思ってしまうが実際にやり遂げる人達がたくさんいる。そして、それは決して運動エリート達だけではなく、普通のサラリーマンも多く含まれている。
 
ほんの少しだけランニングもトレイルランもするから分かる、この人たちが到達している領域の凄さ。精神的、肉体的に極限まで追い詰められた状態を越えたからこそ感じられるであろう瞬間。全ての物事に感謝し、目標に向かって努力し続けることの大切さや充実感。いつかその境地に辿り着きたい。まだまだ先は遥かに遠い。でも、一歩ずつ、ゆっくりでもいいからそこまで行ってやる。今年で40歳。年齢を考えるとそんなに時間は残されていないだろう。でも、焦らず確実にやり遂げてみたい。全ては意思の力である。
 
ここに出てくる人々のスポーツ歴を見ると、意外なほど運動は苦手で社会人になってから、30歳を過ぎてからなどが多い。また、望月さんの山岳救助隊を除いて、公務員やサラリーマンなどが多いこもが伺える。つまり、決して子供の頃から特別な神童的な能力を持つわけでもなく、プロ選手として日々トレーニングしているわけでもない、いわゆる『普通の人』が多いのが特長的である。つまり、決して特別な人間だけが集まっているのではなく、誰にでもこの場所まで辿り着ける可能性があることを示唆しているのである。もちろん、だからと言って誰でも行けるわけではない境地であることは間違いない。でも、普通の人達の姿であるからこそ、そのドラマや姿に感動するのであろう。
 
読了後、HDDレコーダーに残っていた番組を改めて見たが、本を読んで仕入れた情報がベースにあるので、新たな発見があり倍楽しむことができた。惜しむらくは、最初から書籍の情報を番組に盛り込むことができなかったのか、ということ。あるいはDVDの特典映像としてでもいいから、この貴重な映像を是非とも公開してもらいたい。そして、この書籍にももっと写真が欲しかった。来るものを拒むような威容を誇る剱岳、雄大なアルプスの風景、星空、夕陽、選手の横顔。表紙の写真だけでブルっときた者としての願いである。
 
そして、前回大会から2年。今年もトランス・アルプス・ジャパン・レースは開催される模様である。テレビ放送はあるのだろうか。とても楽しみである。