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【読書】怒り(吉田修一)

ある日、閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件。壁にはスプレーで「怒」という文字が描かれていたが、それ以上のヒントもなく時間だけが過ぎ去っていく。警察は犯人が女装した場合の格好イメージ、3連ホクロがあること、整形後のイメージなどをTVで公開して情報収集を図り、少しでも犯人に近づこうとする。

一方、犯罪とは縁もなく、場所もまったく異なる3つの家族の物語が進む。福岡から逃げるように沖縄波照間島に引っ越す母子、娘には家出癖と風俗での勤務経験がある千葉の漁港に住む父娘、それなりのポジションに勤める若いゲイの独身サラリーマン。

3つの家族にはそれぞれ直接の接点はまったくない。共通するのは「最近知り合った男は殺人犯かもしれない」ということ。

全員、身元がハッキリしない。無人島に一人で住む放浪者、偽名を使って働く若者、ハッテン場で知り合ったゲイ...果たしてこの中に殺人鬼はいるのか。

 

人が人を疑い出すトリガーは本当に些細なこと。でも、一度疑いだすと、あらゆることが疑わしく思えてくる。これは人間の性なのであろうか。

3つのストーリーのうち、1つだけが当たりで他の2つはハズレ。しかし、結果的にどのストーリーも不幸な結末を迎える。

最終的に怖いのは人間の心理。決して犯人であると確定した訳ではないのに疑いだすと止まらない。そして、思い込みで動いてしまい、周囲を巻き込んで不幸の連鎖に嵌り込む。

結局、殺人の動機も「怒」の意味も分からないまま幕を閉じてしまったので若干消化不良なところが残る。

結局、人が心に何を抱えているのか、それを完全に見透かすことはできない。怒りや悲しみを抱えたまま生きている、ということなのだろうか。

 

怒り(上)

怒り(上)

 

 

怒り(下)

怒り(下)