【読書】夜行(森見登美彦)
10年前、鞍馬の火祭を見学に行った帰り、突如として消えて行方不明となった女性。
そのときに一緒に出かけた友人が集まり、久しぶりに鞍馬の火祭に出かけようとするが、宿でこの10年間にあった話をしだすと、誰しもが不思議な体験をしていて、そのすべてが「夜行」という一連の絵に繋がっている。
果たして、10年前に彼女はどこに行ったのか。再び会うことはできるのか。そして一連の連作である「夜行」という絵はなんなのか。
この10年間に体験してきた話は、とても現実の世界とは思えないできごとばかりである。そのすべてに「夜行」という不気味な絵が関係している。
そう、まるで絵の中に誘い込むような顔のない女が立っているのである。
森見登美彦が放つ京都のほんわかワールドとは異なる不思議な展開。まるで絵の中から出てきたような女が現実世界に存在してくる。
これは現実なのか夢なのか。はたまた幻想なのか。
最終章、ついに意を決した仲間たちとともに鞍馬の火祭に向かうが、すでに祭りは終わった後。まさに後の祭り。
その帰りに主人公が体験する世界は、今までとまったく異なる世界であった。
実は「消えたのは彼女ではなく僕だった」
というオチ。それでも現実世界に戻ってきて、消えたと思っていた彼女にも会うことができた。
しかし、表の世界には「夜行」などという絵はなく、その作者は存命で「暁光」という一連の絵を描いている。そう、「夜行」の薄気味悪さとは正反対の明るさと生命がみなぎっている絵である。
ああ、なぜか次元の狭間に落ちてしまったけど、なぜか無事に戻って来れてハッピーエンドになるんだな、と思いきや、そのままでは終わらせないのが森見登美彦。
えー、それ、まったく救いがないよな...
という流れになるのだが、ふと自分が生きているこの世界も、実は表ではなく裏側の世界だったりするのかもしれない。
でも、そこにいる本人は、表とか裏とか意識することはない。
そう考えると、世界は自分が信じているのが正しいと思い込むことで成立しているのかな、などと思うのである。