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【読書】Iの悲劇(米澤穂信)

市町村合併を経て成立した『南はかま市』で過疎化で住人がゼロになった村へのIターン移住計画が始まった。主催する「蘇り課」で働くのは、主人公の万願寺、絶対に定時で帰る西野課長、謎の女性新人の観山の3人。

ネット経由での応募者から選ばれた移住者たち。しかし、どの人もトラブルを起こして退去して行ってしまう。

隣人同士のトラブルから発展した放火未遂、鯉の養殖事業の失敗、バーベキューでの食中毒、子どもの崩落事故、円空像を巡る窃盗事件などなど。

一つ一つのトラブルは独立していて関係性はない。でも、たかだか2年余りで12世帯が全員いなくなるようなトラブルが起こるだろうか。

縁もゆかりもない過疎地の田舎に引っ越そう、というのだから、大抵の人の意思は予想がつく。自然が好き、引退してゆっくりしたい、事業を立ち上げたい...どうしてもクセのある人が揃ってしまうものなのか。

「蘇り課」でそれなりに真剣に仕事をしていた万願寺だが、最後の最後に全員が退去した後にあるシナリオの可能性に気付く。

それは、このトラブルと退去は仕組まれたものなのかもしれない、ということである。

西野課長と観山は、移住計画自体が失敗するように仕向けていた。途中途中で少し気になる記述があったけれど、それに気づくことはなく最後まで読んでしまった。

最初のトラブルのところから、妙に刑事のように相手を追い詰めて自白させていく西野課長、ただの新人一年目にしては物事を知っていて美術への造詣も深く、謎の言葉をぽつぽつと話す観山。

ああ、私もすっかり騙されていた。二人が追い出す側としてトラップをあちこちに仕掛けているとは予想がつかなかった。ところどころにヒントは散りばめられていたのに。

確かに考えてみれば、無人になった過疎地に人が戻ったところで、税収が大幅に増えるわけでもないが行政サービスは実施しなければならない。

すると税金がどんどん出て行く。行政側からすると、無駄に支出だけ増える施策は受け入れがたくて当然であろう。

そもそも不便さがなければ過疎化して無人になっていないのだから、無理矢理に移住計画を促進するのは愚の骨頂であることは間違いない。しかし、現実でもこのような施策を行っている地方自治体もありそうで、ゾッとする部分ではある。

それにしても、タイトルの「I」とは誰のことなのだろうか。

また、終章は「Iの喜劇」とタイトルの『悲劇』とは真逆の表現になっているのだが、これはどういうことなのだろうか。考えてみたけど分からなかった...

人がいなくなって無人化され、さらに再興を図った移住計画も失敗したのは『悲劇』かもしれないが、その村を舞台に起こったことは『悲劇』でもなんでもなく、周りからすると『喜劇』になってしまうのかな、と。

  

Iの悲劇

Iの悲劇